前回は文学フリマ東京でのブースのデコレーションを紹介しました。
「この人たちはどうしてこれほどまでに作品の外側に気を配るのだろう」
と思われた方もいらっしゃると思います。
その答えも出店者さんたちを観察していきますと見えてきます。
ある出店者さんはこう仰っていました。
正確な言葉ではありませんがご紹介します。
文学フリマには中身の素晴らしい作品が出展されてます。
しかし、その中にはデザインが「無意識に読める」ようになっていないものもあります。それはすごくもったいないことです。
至言だと思います。
メッセージを伝えるための媒体は読書体験に影響を与えます。
メッセージの内容はそれ単独で存在しているわけではないのです。
では、デザインを工夫した作品や展示とはどのようなものなのでしょうか。
1.デザイナによるコーディネート
デザインのプロが同人誌即売会に来るとどうなるかを見て頂きましょう。
こちらのサークルさんは見た瞬間に足を止めてしまいました。
ボードやパネルのお陰で書籍やデザインが一目瞭然です。
それでいて「本で実際に見てみたい」と思わせてくれます。
その上で、
これです。
写真ではわかりにくいですが、ちょっとおしゃれなバインダーに収まっています。
実はこれ翌日配達で有名な通販でかなりお安いバインダーだそうです。
1つ1つは安価に手に入るものかもしれません。
しかし、これらが組み合わさって、作品が身体に接近してきているかのように感じられます。
実際には、自分の視線がそこに固定されているだけなのです。
それまで、視覚がコントロールしうる器官の1つだと無意識に思い込んでいました。
その実体は外部からの刺激に晒された受容器官でした。
感覚器であるのだから当然ですが、忘れがちになっていることです。
情報を再配置したり、新たな場所に置き換えることで、ただの情報が力を持ちます。
神経系は新たな信号を生み出し、身体は揺さぶられます。
たった一言によって世界が組み変わるように、デザインも認識システムを変えてしまうのです。
2.綴込表紙による「製本」と飲むテクスト
さて、デザインの力を確認したところで、お次に紹介するのは「書籍をどうデザインするか」です。
文学フリマ福岡では同人誌制作セミナー「ドウジンノススメ」を開催致します。
しかし、印刷業者を通した同人誌だけが同人誌というわけではありません。
コピー本という方法もあります。
単純にコピーしてホッチキスで留めるだけ、というわけではありません。
色々な工夫をしていらっしゃる方々がいます。
「色々な」の部分は各自ネットなどで検索して頂くとして。
文学フリマ東京での例を取り上げたいと思います。
詳細は分かりませんが、ほとんど自分で作っているのではと思います。
例えば手前のこれです。
中には印刷された文学作品が収められています。
右端奥をご覧ください。ちょっと見えにくいかもしれませんので上からも撮影しました。
これは市販されている水溶性のカプセルなどに可食性のインクで文字を書いているのです。
つまり「食べられる文学」です(実際に口にする意図で作られているわけではないようですが)。
比喩的な意味ではなく文学を血肉とすることができるのです。
詩のような文学作品を読んでいると、自分自身が組み変わる感覚を覚えることがあります。
この現象を可視化した作品と言えるかもしれません。
3.模倣という遊び
表紙のデザインで「ちょっとしたお遊び」をすることがあります。
例えば作品、レーベル、ジャンルへの敬愛の気持ちを表現するためのパロディがそうです。
こちらのサークルさんは商業誌の表紙を模倣しています(同人誌だときちんと分かるようにしつつ)。
装丁からSFへの愛や作品の介入している文脈を示しています。
細部にまでこだわり作り上げていくことは作品の意味を作り出す行為でもあるのです。
(文責・副代表)